≒bさんとhさん≒

 最初はただの友人だったはずだ。

 「まったり同好会」という名の、その名の通り、何をするでもなくだらだらと部室で過ごし、
気が向けば数人で固まってゲーセンに行ったり、飲みに行ったりするという暇潰しのような
サークルの友人だ。
 幽霊部員も多いこのサークルの中でいつの間にか毎日部室に顔を出す常連組になり、それに
合わせて仲も良い方になった。気心も知れてきて、言葉の上だけでの喧嘩腰のやりとりもテン
ポが良くて、楽しい。
 他の部員の合の手も受けながらとんとんと会話をするbさんとhさんに、サークルの会長
cさんがからかうように呟いた。
「仲いいですよね」
「良くないですよっ!」
「全然っ!」
 同時に同じような反応を返す二人に、周囲が苦笑を漏らす。全然説得力がない。
「…だって、じゃあ、何でくっついてるんです?」
「うっさい!」
「背凭れがいるんです!」
「そっちが背凭れ!」
「椅子!」
「椅子…いいっス」
 お互いに背を預けて座って雑誌を読んでいる二人の姿に、説得力がないというのを指摘した
cさんは、それに反論して始まった言い合いにイシシとオヤジギャグを呟いて、白い目で見ら
れてしまった。
 このcさん、常にライオンのきぐるみを着ていることで学内でも有名な人物なのだが、その
きぐるみの中の素顔を見た人はいない。まったり同好会の創設者だという年齢詐称説まであり、
実はあれはきぐるみではなく実体で、突然変異物体か宇宙人ではないかと、生物学会やSF研究
会から狙われていたりする…。閑話休題。

 ある日、bさんがいつものように部室に行くと、hさんが一人で何やら読んでいた。
「あれ?珍しいね?一人ですか?」
 声を掛けると、hさんは顔を上げ、肩をすくめた。
「さっきまで三人くらいいたんですけどね、明日封切りの映画のチケット買いに行くーって、
 意気投合して出てっちゃいましたよ。もう今日は誰も来ないんじゃないですかね?」
「ふーん」
 二人だけなら、こんな調子で喋ることが多い。やはり、人数が多いと無意識の内にテンショ
ンが上がるのだろうか?
 どさっと自分の荷物を机の上に放ったbさんは、hさんの方を覗き込んだ。
「何読んでるんですか?」
「aさんが貸してくれた本です。何冊か貸してくれたんですけど、これはもう終わり」
「面白かった?」
「今一。あまりにベタ過ぎて、ウザかった」
「ふーん」
 hさんの感想を聞いて逆に興味を引かれたbさんは、hさんの隣に積んである数冊の本の山
から一番上に乗っていた漫画を手に取った。カバーが掛かっていて、どんな漫画か想像がつか
ない。
 hさんも今まで読んでいた本を山の逆側に置いて、次の本を手に取る。同じくカバーのかか
った漫画だった。
 そうして、二人はいつものように互いの背を背凭れにして、漫画を読み始めた。

 数分後。
「うげっ」
と言ったのは、どちらが先だったか、一緒だったか。
「こ、これ…」
「ホモだ…」
 そういうものが巷で流行っていることも、部員にそういうものが好きな人が結構多いことも
知ってはいたが、読んだのは初めての二人だ。
『aさ〜〜ん…』
という心の叫びとは別にどんなものかという興味は結構あって、二人共、本を置くことはしな
い。
 …が、読み進むうちに、声を出さずにはいられなかった。
「男に告白されて、赤くなるなーっ!」
 bさんが言うと、背後でhさんが言う。
「こっちは青くなってますよ…」
「……おーけーしてるよ…」
「…こっちは逃げてます…」
「…セックスについて悩んでるぞ…つーか、やりたいのか、本当に…」
「…男役を『攻』、女役を『受』って言うんですね…」
「…そんな専門用語、知りたくなかったような気も…」
「…ですね…」
「…」
「…」
 しばらく無言で読んでいた二人だが、どうにもこうにものっぴきならない場面に到達したら
しい。自分一人では耐えられない衝撃を相手に伝えようと勝手に口が動く。
「………乳揉まれて悶えてんですけど…」
「……こっちもです……」
 怖いモノ見たさというのか何というのか、目が離せなくなってしまっている。
「……な、舐めてんですけどーっ」
「……か、噛んでます……」
「…」
「…」
「う、わ、そんなとこっ…!」
「そ、そりゃ、ダメだろ…!」
 既にお互いの台詞は聞いているようで、聞いていない。
「ムリムリっ!」
「うわっ!」
「…げ、入れたっ!」
「え!?もう!?こっちはまだです!」
「いいのか!?まじで!?」
「あっ!外したっ!」
「つーか…しつこい…」
「痛っ!それは痛い!」
「あ…」
「…いった」

 二人の運命が別れた瞬間だった。

 一冊全てを読み終わり、二人は脱力した。
 少し黙って、未知の世界へ足の指先を突っ込んだ衝撃を流していたが、ふとお互いの体温が
気になり始めた。読んだばかりの漫画がぐるぐると頭の中を回っていく。
 理不尽だ…と二人は思った。
 二人が読んだ漫画は違う作者だったが、どちらも顔は可愛らしい、或いは綺麗な少女漫画で
あるのに、何故だか、何故だか!そういう場面で描かれているアレはリアルなのだ…。
 そして、そこを刺激されている絵も結構…となれば、ついつい感情移入ならぬ快感移入して
しまう若い性。自分達の想像力の豊かさを呪った二人だが、一旦気になり始めたものはどうし
ようもない。
「え、えーと」
 二人は同時に背を離して、振り返った。こんな時は息の合い具合が恨めしい。
「あれ?二人ですか?」
 そこへ、がちゃりとドアの開く音がして、cさんが入ってきた。ぎくりと心臓が飛び上がる。
「意味深〜」
 イシシといつもの調子で冗談を言ったcさんは二人からラリアートを喰らって倒れた。
「な、何で…?」
 二人はそのまま、風のように走り去り、後にはタイミングが悪かっただけなんだけど、訳の
分からないcさんが残されたのだった。

 さて、それから数日後のこと。
「あ…」
 部室に入ってきたbさんを見て、hさんは固まった。
「こ、こんにちは〜」
 bさんもぎこちない。
 そう、あれから二人はどうも雰囲気が微妙なのだ。
 一緒にホモ漫画を読んだだけのはずなのに、最後に妙にお互いの体温を気にしてしまったこ
とに、罪悪感とも似た妙な感覚が身体のどこかに残っているような気がするのだ。
 ギクシャクというよりカクシャクとした二人の態度に部員達は不思議そうな目は向けていた
が、基本的に個人主義の放任サークルだ。喧嘩してるわけでもなし、と傍観の構えだ。ただ、
時々cさんだけがいつもの通りにからかうような発言をしては、何かが気に障るらしい二人に
手痛いツッコミを入れられてはいたが。
「ま、また一人?」
「えぇ…」
 どちらも微妙に視線を逸らしたまま、ぎこちない会話を続ける。少し間があって、
「…あの!」
と言ったのは、二人同時だった。それで、出会ってしまった視線をまたお互いに逸らす。
 この微妙な雰囲気がどうにも嫌なのは二人とも同じだった。不安で嫌なのだ。何故、不安で
嫌なのかといえば、このぼややんとしたような微妙な雰囲気には二人とも何となく覚えがある
のだ。…そう、昔、好きな女の子と二人っきりになった時とか、彼女と付き合い始めた頃に感
じた覚えが…。そ、そんなことはない。それは困る!と思っているので、不安で嫌なのだ。
「あははははは」
 意味なく乾いた笑いを漏らす二人は端から見れば不気味だったが、本人達は気にする余裕も
ない。
「オッス!…て、また二人です?」
 微妙な空間を破ったのはまたしてもcさんだった。いつもタイミングが良いのか悪いのか分
からない登場だが、今回は助かったと二人は思った。
「ナニしてたんです?」
 思ったが、無邪気にそう聞いたcさんにラリアートが炸裂したのは、八つ当たりもあったの
かもしれない。
 発音がちょっと悪かっただけなのに、いと憐れ…。

 さて、更に数日後の週末。
 吹っ切れた(吹っ切った?)のは、bさんが先だった。
「今日、うちに来ません?」
 部室の前で腕を掴まれたhさんは、bさんの爽やかな笑顔に口篭もった。
「え、えっと…」
 その爽やかな笑顔が何だか怖いんですけど…とは、さすがに本人には言えない。
「何か、予定あります?」
 咄嗟に首を振って、しまった!と思ったが後の祭り。にやりと笑った(ようにhさんには
見えた)bさんに強引に腕を引かれ、hさんドナドナ。

 そして、通されたbさんの部屋。
 ベッドにスタンドに机。ごく普通の部屋だ。変わった物といえば、机の上の大きなトレース
台くらいか。
「いっ、いいお家ですね〜」
 間が持たなくて、hさんが強張った笑みを浮かべる。
 部室では常連組で仲が良いが、お互いの家へ行き来はしたことがなかった。
「いつもはもっと賑やかなんですけどね、今日は皆出掛けてていないんですよ。ゆっくりして
って」
 お茶を出しながらのbさんの言葉に、何だか攻撃を受けているような、強い波に流されてい
るような、そんな感じがして、hさんは心密かに焦った。
「好きなんです」
 hさんの焦りを知ってか知らずか、唐突にbさんは言った。
「!?」
 目を剥いたhさんにbさんはにっこりと笑い掛けた。
「本当は『好きなんだと思います』くらいなんですけどね。だから、気のせいだって思い込ん
でおきたかったんですけど、何だか、この気持ち、どんどん成長していきそうなんで、試して
みることにしたんです」
「た…試して?」
 bさんの言葉の前半はhさんには強く同意できるものだったが、最後の一言が不気味に分か
らなくて、オウム返しに聞き返した。
「こないだ読んだ漫画みたいなことを」
 さらりと返したbさんにhさんの口は水揚げされた魚のようにぱくぱくと声もなく動くばか
りだ。そんなhさんの反応をどう思ったのか、bさんは安心させるように笑った。
「大丈夫。一昨日がバイトの給料日でね、必要そうな物は揃えておいたから」
「ひ、必要な物って…」
「読んだの、初心者相手の結構詳細なヤツでしたから、それでだいたい…」
「か、帰ります…」
 衝撃に抜けたようになった腰を引き摺りながらドアに向かったhさんの足首をbさんが捕え
た。ゾゾッと悪寒とも何ともつかないものが背から頭までを走り抜ける。
 そのまま後ろからhさんを抱きこんだbさんは、意識的に声を低めて耳元で囁いた。
「興味…ありません?」

「…手馴れてますよね」
 攻防の末、あれよあれよという間にシャツ一枚の半裸にされて、ベッドに転がされたhさん
は憮然とbさんを睨んだ。
 「妬いてます?」なんていう馬鹿な台詞をbさんは口にしなかった。同じ男として、憮然と
してしまう気持ちは分かるからだ。そして、同じ男だからこそ、こちらの気持ちも分かってほ
しいとも思った。
「男を脱がすのは、初めてですよ」
「こっちだって、男に脱がされるのは初めてですよっ」
「光栄です」
 ばたばたしている内に冬の早い日は落ちて、暗くなった室内にトレース台の光だけが間接照
明として、部屋を薄青く照らしている。その陰影で艶の強調された顔で平然と笑ったbさんに
hさんは悔しげにぼそりと呟いた。
「エロキングめ…」
 呟きに反論するように鎖骨に吸い付かれ、首を振る。屈辱で。
 何で、こういう体勢なんだ!とhさんは思った。確かにここまでくれば、メイクラブしてみ
ようかと思うくらいにはbさんのことを好きだと思うが、それとこれとは話が別だ。
 逆転を何度も試みるが、半端に脱げたシャツが邪魔をしている上に、bさんが体重を掛けて
乗っているので、どうにも身動きが取れない。それも手馴れた計算かと思うとますます憎らし
い。しかし、睨むその目にbさんはうっとりと笑うばかりだ。
「…っ!」
 乳首を抓まれて、hさんは息を呑んだ。両方を違う間隔で抓まれて、認めたくない快感が爪
先に向かって走る。
「…本当に、男でも結構感じるものなんだ…」
 こりこりと反発を返す二つの突起に、bさんはhさんの耳朶を食みながら低い声で囁いた。
hさんの首筋が粟立つ。
「気持ちいい…?」
 息を殺して、hさんが頭を振るたびに髪がシーツに当たって、ぱさぱさと音を立てる。その
音にさえ、興奮する自分をbさんは感じていた。その勢いのまま、手を下方へ撫で下ろしてい
く。
 視覚的には嫌悪感の湧かなかった自分と同じ性を表すモノに触れてみる。既に半身を起こし
ているソレにhさんの快感を感じて、ますます興奮していく。
「ほんっと…に、男脱がすの…っ初めっ…て…なんですかっ…っ」
 舌で胸の突起を舐められるという、今までになかった快感と、覚えのある、しかし、常より
強烈な下半身の快感が同時に身体中を駆け巡り、hさんは知らず涙目になっていた。
 それが悪態でも、hさんの出した声は喘ぎの色っぽさが溢れ、それに釣られて顔を上げたb
さんは伸び上がってhさんの目尻を舐めた。
「初めてですよ。…でも、気持ち良い場所は自分の身体で知ってますからね」
 漫画で読んだ未知の領域は知らないけどね、とbさんは心の中で続けた。
 その未知の領域を開発する前段階として、bさんは過去に彼女達にやってもらったあらゆる
気持ちの良いことをhさんにしてあげることにしていた。…何せ、読んだ漫画によるとそれは
大変…色々と大変なものらしいので。すっごい痛そうというのも想像は付くことだし。罪滅ぼ
しというとなんだが、気分的にはそういう感じで。
 完全に勃ち上がったモノをぱくんっと口に含まれて、hさんは背を反らせた。
「…っ!ほっ…本気っ…ですかっ!?」
「今更…ここまでやるんですから、本気に決まってるじゃないですか…」
 そんなことまでする相手の正気を問うたhさんは、口に自分のモノを咥えたまま、もごもご
とbさんに不明瞭な答えを返され、その感触に「ひっ」と息を呑んだ。
「…っん…あっ」
 そのままぴちゃぴちゃと卑猥な音をたてながら、相手の快感を引き出していたbさんは、そ
の声に一旦口を離し、勃ち上がったモノの裏を舐め上げて笑った。
「気持ち良さそうですね…」
 快感を逃がさないように根元を握って、空いている方の手で未知の領域への一歩を促す道具
を探る。封を開けておいたそれの蓋を片手で器用に開け、とろりとした液体をhさんの秘境へ
塗り込める。
「…やっ……な…何…」
 突然の冷たい感触に声を上げたhさんに答える言葉を見付けられなかったbさんは、無言の
まま、後ろから気を逸らせるように根元を握っていた手を上下に動かし始めた。
「あっ………んっ」
 出せずにいる快感がまた身体中を巡り始め、hさんは後ろを揉み解すように何かを塗り込ん
でいる指に不安を覚えながらも、意識が朦朧とし始めた。
「……った!」
 また意識が戻ったのは、朦朧としてきたhさんの表情を見て、そろそろいいかとbさんが指
を入れたときだ。
 痛くはなかったが、異物感が不安で「痛い」と言ってみる。が、当然そんな主張くらいでは
bさんは指を抜かない。それどころか、入口が柔らかくなってくると、本数を増やしてきた。
「んんっ!」
 三本になったbさんの指のどれかが、hさんのどこかを触った。跳ねた身体に宝物でも発見
したかのような、満足な笑みをbさんは浮かべた。が、hさんはその笑みを見る余裕がない。
初めての、同じく初めてだった乳首からの快感よりも強烈な快感が走ったのだ。
 既に前はぐちゃぐちゃで、後ろもbさんの準備品でどろどろだ。うっとりとその様子を眺め
たbさんは、自分の準備をした。
 快感で下半身に力が入らず、圧し掛かっていなくても、もうhさんには抵抗する気力はない
ようだった。簡単に両足を開かせ、担ぎ上げる。
「…っっったーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
 一気に突き入れた瞬間に鼓膜が破けそうな声でhさんが叫んだ。
「痛い痛い痛い痛いっ」
 一気に覚醒したようで、明瞭な言葉で繰り返す。涙目で頭を振るhさんの顔をがっしと捉え
たbさんは、自分の口でそのうるさい口を塞いだ。
「んーーんーーんーーーっ!」
 抵抗がしたいらしいが、相変わらずのシャツが邪魔をしてままならない。せめても、と近過
ぎて焦点の合わない目でbさんを睨み付ける。
 静かになったhさんに気付いて唇を離したbさんは、そのきつい瞳にまたうっとりと笑った。
「逆効果ですよ…」
 征服欲が刺激されるだけなんだけど…と思いながら、抵抗を止めて全体的に少し力の抜けた
hさんの腰を掴んで、ゆっくりと腰を動かし始めた。

 それから一ヶ月半程経ったある日。

 今度はbさんがhさんの部屋にいた。
 あの日のように、今度はhさんがbさんを部室の前で掴まえたのだ。
 あれから、部室では以前のように仲良く振る舞ってはくれるが、触らせてくれないhさんに
じりじりとしていたbさんは、一人暮らしのhさんの部屋への招待に一も二もなく承諾した。
「な、何だか、少し筋肉付きました?」
 相手のテリトリーに入るというのはこんなに緊張することだったのか、と改めて、あの日の
hさんの心情を思いながら、落ち着かない気分でbさんはhさんを見上げた。
 学生用マンションの簡単なキッチンで入れたインスタントのコーヒーを差し出しながら、h
さんはにっこりと笑った。
「ガテン系のバイトしてましたから」
「あ、それで、最近早く帰ったり、来てなかったりしたんですね…」
「そうですよ。ちょっと欲しい物がありまして…」
「…避けられてるのかと思いました…」
「そんな…」
 恥らうように笑んだhさんに、bさんはほっと息を吐いた。
「そういえば、欲しい物って何だったんです?」
 コーヒーを一口飲んで、ふと尋ねたbさんにふふっと笑ったhさんは横に置いてあった黒い
ビニール袋から、銀色に光る物を取り出した。
「これ、何だと思います?」
「…手錠?」
「おもちゃですけどね」
 bさんの右手を取りながら、また楽しそうに笑ったhさんはそのまま手錠の片方のワッカを
カシャンとbさんの手首に掛けてしまう。
 何をするのかと見守っているbさんに笑い掛けながら、もう片方を金属のパイプ棚に掛ける。
「何…?」
「もう一つあるんです」
 手品のように、また黒いビニール袋から革の拘束具を取り出したhさんは、今度はbさんの
左足を取ってそれを取り付け、その先をパイプ棚の手錠とは逆の脚に結び付ける。
 不自然な形に身体を開かれたbさんは、ここでようやくおかしいと思い始めた。
「何を…っ!?」
「bさんが漫画を参考に必要な物を揃えてくれたように、俺も色々ねぇ、用意したんですよ」
「ま…さか」
「やっぱ短期で稼ごうと思ったら、ガテン系が一番ですね。結構高い物とかもあって、漫画は
やっぱ都合良くできてるんだと思いましたよ」
 真っ青になったbさんを鈍いとは言わないでほしい。bさんはどちらかというと敏い方だ。
だがしかし、今回のbさんは前回の経験が危機感を惑わせていたのだ。漫画では…漫画では、
男役はずっと男役のままだったのだ。立場が逆転するなんて、そんなことが起こり得るなんて
考えもつかなかったのだ。
 そして…hさんは、ずっとあの翌日からの腰…というか、人様に言えない箇所の痛みに愛の
復讐を誓っていたのだ。
「俺も、好きですよ」
と、にっこり笑って、あの時には言わなかった告白の答えをhさんは返した。
「バイトを増やして試してみるくらいに…ね」
 何を試してみるのかは、前回の自分の言動から嫌というほど推し量れたbさんだ。

「ほら、暴れると危ないですよ」
 服を脱がされるのに抵抗したbさんは繋がれたパイプ棚から降ってきたCD等の小物に打た
れ、小さな呻き声を上げた。落ちたそれらの小物類をまたパイプ棚の元の位置に戻しながら、
hさんが言う。
「抵抗しないで下さいね」
 怪我の有無を確かめるように身体に触れたhさんは手際良くbさんの服を脱がせた。もちろ
ん、上着の右袖とパンツの左裾は抜けなかったので、そこに服は引っ掛かったままだが。
 bさんの姿を眺めたhさんは満足そうに笑った。
「あの時のbさん、こんな気分だったんですかね」
 楽しいなぁ、という声の聞こえるhさんの台詞にbさんは情けない顔をした。
「…あの時のhさんは、こんな気分だったんですか?」
「えぇ、きっと一緒ですよ。お互いに理解が深まって良かったですね」
 語尾に凶悪なショッキングピンクのハートマークが見えるようだ、とbさんは思った。繋が
れていない方の膝を立て、そこに逆の手を乗せてその上に額を乗せて、大きな溜息をついた。
「隠しちゃダメですよ」
 膝と額の間にあった手を引き抜かれ、思わず顔を上げたbさんの口を自分のそれで塞いだh
さんは、bさんの意識が口中に向いている隙に引き抜いた手にも手錠を掛けた。bさんがはっ
とした時には都合三ヶ所を繋がれ、完全に磔状態になってしまっていた。
「…どうするつもりですか」
 愛はないのか、と不満そうな声を上げたbさんにhさんはにっこりと笑った。
「燃えるらしいですよ。楽しみましょうね」
 何が、とはhさんの笑顔が怖くて聞けなかったbさんだ。
 hさんは強張った顔のbさんの唯一自由な脚に手を掛け、まずは味見とでも言わんばかりに
ぺろりと胸を舐め上げた。そのまま、両方の突起を歯で交互に甘噛みしながらもう片方の手で
身体中を愛撫していく。
「………っ!」
 這い上ってくる快感を逃がそうと頭を振るが、丁度頭の位置にある棚にごつごつと頭が当た
る。諦めて、下を向いたbさんはhさんがそこに舌を伸ばすのを見た。
「…………ぁ…」
 快感の声を上げたbさんをちらりと見上げ、hさんは更に煽り立てるように舌を使った。
「ぅ……も、もぅ………っ」
 完全に煽り立てられたbさんがそれを昇華させようとした瞬間、きゅっと根元を握り、逆の
手で先端を塞ぐように握ったhさんは声を潜めて笑った。
「まだ…ですよ」
 根元の手はそのままにもう一方の手を先ほどの黒いビニール袋に突っ込むと、がさごそと中
を探って何かを取り出した。
「な………」
 快感を遮られたbさんが薄目で確認したそれはコード等を止めるベルトのように見えた。そ
れをhさんは器用に片手でbさんのモノに巻き付け、きゅっと締めた。
「………!」
「本当はこういうのも用意してたんですけどね、手を放した瞬間にイかれても困るんでこっち
にしました」
 自由になった両手でまた黒いビニール袋から取り出した高そうなリボンを開いて見せながら
hさんは言った。
「まあ、せっかくですからこれも使ってみましょうか」
 ビロードにレースの付いたワインレッドのリボンをくびれた部分に結ばれ、bさんは唇を噛
んだ。ビロードの起毛の感触とレースの微妙な感触が何ともいえない感覚を呼び起こす。
「あ…く趣味…」
「bさんと同じく、漫画で学習しただけですよ」
 がんがんと主張し、それを果たせず、ぴくぴくと震えるbさんのモノをピンッと指で弾いて
hさんは更に黒いビニール袋に手を伸ばした。今やbさんにとって、その黒いビニール袋は恐
怖の象徴になっていた。まるで、不幸を呼ぶ四次元ポケットのようだと思い、次に何を取り出
す気だドラ…hさん、と手元を凝視した。
 出てきたのは……どう見ても「大人のオモチャ」とかいう代名詞で呼ばれるモノだった。
「漫画ではもっとすごいのだったんですけどね、イボとか付いてて。でも、まあ最初からアレ
はキツいかなと思いまして」
 ふぅっと気が遠のきかけたbさんの頭にイボイボの大人のオモチャと共に、hさんの「愛で
すよねぇ」という声が入ってきて、心底泣きそうになった。
 愛って、愛って…と自失したbさんは繋がれていない方の足を持ち上げられて、ガンッと棚
で頭を打った。
「何を…っ!」
 思わず怒鳴ると、hさんはにやりと笑った。
「またまた。分かってるでしょ」
 確かに分かってはいた。前回は自分がしたことだ。だが、まだ自分の立場と目の端に映る物
がどうしても納得できなかったのだ。bさんは。しかし、そんなbさんの心情には全く頓着せ
ず、hさんは不幸の四次元ポケットから前回bさんが使ったような液体のボトルを取り出した。
「や…やめ……」
 液体と共に突っ込まれた指に抵抗の声を上げたbさんにhさんは暗く笑って言った。
「大丈夫ですよ。それこそ、快感の場所も何もかも全部自分の身体で知ってますから…」
「ひっ…」
 指で少し柔らかくなったbさんの洞穴にhさんは探索機…大人のオモチャを侵入させた。
「何で高かったかと言うとですね、これ、電源入れると動くんですよ」
 オモチャの説明をしながら、その通りにスイッチを入れたhさんはびくんっと身体を震わせ
艶っぽい声を上げたbさんにうっとりとした視線を送った。
「あ……あ……ぁ、や…」
 涙目になって身を捩るbさんをオモチャの動くウィィィンという音をBGMに少しの間、遠
目に観賞していたhさんだったが、おもむろに立ち上がって服を脱いだ。
「選ばせてあげますよ。上の口か下の口か…どっちに欲しいです?」
 ま、どっちを選んだにしても上の口では前回やってもらったし、最後には下の口にしてもら
うつもりですけどね…と思いながら、強烈な快感とそれを昇華しきれない辛さに朦朧としてき
たらしいbさんの前に立ち、ゆったりと笑った。

 二人は最早ただの友人ではなくなってしまった。

 最近ではお互いに『次』を狙って、喧嘩腰の掛相も底に結構真剣な攻防が含まれるようになり
テンポが増している。
「いいコンビだよなぁ」
と言われたりする度に、こんな掛相をしているのである。
「コンビになりたくないです…」
「!? こっちだってお断りじゃぁ!」
「わしの方からお断りじゃぃっ」
「hさんの…アホアホアホアホアホアホアホアホスキ!」
「bさんの…えろえろえろえろえろえろっ!」
「こ…この…っ………惚れたべ…」
「惚れっか…」
 他の部員がそれ以上、何かを言うことはない。何せ、本当に個人主義なサークルなのだ。

 二人がこれから、どこへ行くのか。どういった人という冠の付いた道を行くのか。
 そんなことは分からないけれど、その行く先に幸あれと願うものだ。

「あれ?aさん?何してんですか?」
「あら、cさん。いえ、ちょっと観察日記をね…」
「朝顔でも育ててんですか?ま、いいや。今日はもう閉めちゃいますよー」
「はーい。出ます出ます」
「そういえば、こないだhさんがaさんに漫画借りたって言ってましたけど…」
「んふふふふ。cさんも読みます?」
「貸してくれるんですか?」
「えぇ、最近買った獣姦…というか、異種交流のヤツも一緒に貸してあげますよ」
「十缶?自動販売機の話ですか?」
「んふ。それは読んで…」

   パタン。
  

-END-

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