∽お風呂遊び∽


 「お兄ちゃーん、来たよー!」
  玄関から大きな声で自分の存在をアピールしながら、それでも勝手知ったる…で
 ずかずかと奥まで入って来た吉也をちらりと見て笑ったのは徹だ。
 「よく来たな。寒かっただろ」
 「走ってきたからね、熱いくらい。汗かいちゃった」
  マフラーを外して、咽喉元の汗を見せながら、差し伸べられた徹の手に荷物を渡す。 
 「風呂、入るか?」
 「沸いてるの?」
 「お前が来るからな。飯もできてるぞ」
 「すごーい。いたれりつくせりってやつだね」
  少し自慢そうに笑った吉也の頭をくしゃりと撫でて、徹も笑う。
 「ボキャブラリー増えてんじゃん」
 「…俺、もう六年だって、夏にも言わなかったっけ?」

  吉也と徹は祖母同士が姉妹で、またその祖母達が仲良く二人暮しをしている為に、
 盆正月には必ず顔を合わせていた。
  親戚が大勢集まる中で、一人歳の離れている吉也の面倒を見るのは祖母達の孫の
 中で二番目に下、つまり吉也の次に歳若い(それでも七つは違うのだが)徹の役目に
 なった。母達は大人数の食事の仕度に忙しく、吉也が三才になった冬くらいから、
 それは完全に徹の役目になっていた。
  数年前に父親が海外赴任になり、家に一人暮らしが決まった徹の元に、祖母達の家
 に集まる数日前から吉也が泊まりに来ることも決まり事になっていた。
 「一軒家に一人暮らしじゃあ、徹が寂しいと思うの」
 という母親の言葉に吉也は素直に喜んで同意したが、徹には吉也の面倒を見ていれば
 『悪さ』をする間もないだろうという両親の意図が透けて見えていた。

  むくれた吉也に緩く笑んだ徹は、いつも吉也が使っている客間に荷物を下ろし、鞄
 から下着とパジャマを取り出した。
 「成長が見えて、嬉しいんだよ」
 「兄ちゃん、じじくせぇ」
  ほら、と手渡された着替えを受け取って、吉也はバスルームに向かった。
  手早く全裸になった吉也は浴室に飛び込むと、掛け湯をして、後ろを振り返った。
 「お兄ちゃん、シャワー出すよー」
 「あぁ」
  湯舟に浸かって、シャワーの側にカランを捻る。
  最初は冷たかったシャワーの水がお湯になり、湯気を立て、その湯気が浴室中を満た
 した頃にやはり全裸になった徹が入ってきた。

  どれも恒例になっていることだった。
  小さな頃から、祖母達の家ではいつも徹にお風呂に入れてもらっていた吉也だったが、
 ここ数年は親戚達にからかわれるので、一人で入っていた。だが、それを寂しく思って
 いたのを徹に白状してからは、この二人きりのときだけは内緒で昔通りに一緒に入って
 いた。

  ざっとシャワーで掛け湯をした徹の姿に見惚れていた吉也は、髪まで洗い終わった徹
 に目を向けられて、慌てて、上がった。
 「ほら、座れ」
  徹の前のバス・チェアに座り、目をぎゅっと瞑る。その吉也の髪をシャワーでたっぷ
 りと濡らした徹は頭をシャンプーを手に取り、マッサージをするように洗っていく。
  人の手で頭を洗ってもらうのは、どうして、こんなに気持ち良いのだろう、と吉也は
 思う。
  同じようにコンディショナーでも洗い終え、髪の水気を手で絞り、ざっと体を流す。
  目を開けた吉也は、後ろから伸びてきた徹の手がボディーソープをそのまま手に出し
 ているのを見て、首を傾げた。
 「お兄ちゃん、スポンジは?」
 「捨てた」
 「何で?古くなったから?」
  肌触りが良かった前のスポンジを結構気に入っていたので、首を後ろに倒して、徹を
 見上げた。
 「いや。人間の肌に一番良いのは、人間の肌なんだと」
  自分の世話を焼いていた徹が、子供のくせに「添加物は体に良くない」だとか「カル
 シウムを摂取する為には小魚と牛乳を飲まないと」などと、偉そうに言っては実行させ
 てきたことに慣れている吉也は、またそういったことかと納得して、話を耳を傾けた。
 「本来、人間はあんなに必死に体を擦り上げることはないんだと。逆にそういったこと
 をしない方がいいこともあるらしいし。血行を良くするだけなら、それこそ風呂の浸か
 っていればいいしな。ほら、手を洗うときだって、スポンジなんか使わずに石鹸だけで
 洗うだろ?それで十分なんだよ」
 「ふぅん」
  徹の薀蓄に感心をして、吉也が首を起こすと、それを待っていたかのように、手で泡
 立てたボディソープを耳の裏側から擦り付け始めた。
  そこから、やはりマッサージでもするように首を洗っていく徹の手がくすぐったくて
 吉也は首を竦めて笑った。
 「こーら、大人しくしてろ」
  くすくすと笑い続ける吉也を後ろから抱きとめるように抱え込んだ徹は、今度は指の
 先から手を洗っていく。
  徹の長い指が自分の指の間や脇の辺りを蠢くのを不思議な気分で見詰めていた吉也は
 覚えのない感覚が下腹辺りに湧いてくるのに戸惑った。そして、それは胸の辺りを洗わ
 れた時に、一気に初めて味わう強烈な快感に変化した。
  鎖骨の辺りから、同じくマッサージをするように下りてきた徹の手は吉也の胸に至る
 と、そこに可愛らしく存在を主張する乳首を摘んだ。揉み込むように洗っていく。
 「は…っ……ん」
  洩れた自分の声に驚いて、我に返った吉也は、他の箇所よりもそこに徹の手が長く留
 まっていることには気付かず、逆に気付いたのは、自分自身の変化だった。
  学校で習っていたので、知識はあったが、自分の体にそんな変化が起きたのは初めて
 だった。
  どうしようかと困惑して、徹から隠すように体を前屈みにする。
 「…こら、体起こしてろって」
  その吉也の変化を知らぬふりで、徹は吉也の胸を抱き起こし、自分の胸に押し付けた。
 吉也がびくっと震える。今まであまり気にしていなかった、徹のものが腰にあたるのが
 気になったのだ。
  腹を洗われ、次は変化を起こしたそこに触れられるかと、吉也は身構えたが、徹はそ
 こには手を伸ばさず、太腿の外側をぴしゃんと軽く叩いた。
 「ほら、足曲げろ」
  ぴくぴくと初めての感覚を主張するそこを気にしながら、片足を曲げる。その足先を
 後ろから取るようにして、手のときのように指先から洗っていく。
  だんだんと上ってくる手を意識して、吉也の息は詰まる。が、片手で太腿を持ち上げ
 られ、もう片方の手が際どい足の付け根を擦っただけで、やはりそこには触れなかった。
  期待なのか、何なのか、もう自分が何を感じているのかすら分からなくなった吉也の
 目に涙が滲む。自分でそこに手が伸ばしたいような気もしたが、徹の手前、出来ない。
 「逆」
  さっきとは逆側の太腿の外側をまた軽く叩かれて、その振動にすら感じてしまう。
  何かを解放したい、という思いに身を焼かれているのだが、徹のことを意識して、ぐ
 っと我慢する。そろそろと先ほどとは反対の足を曲げる。
  同じように足先から付け根までを洗った徹は、今度こそ、そこに触れた。
 「ひっ………!」
  解放の予感は裏切られ、立ち上がったその根元をしっかりと握られて、遂に吉也は涙
 を零した。
 「…お…に…ぃ…ちゃ…ぁん…」
 「ん……?なんだ…?」
  そこを揉んだり、擦ったりして洗いながら、徹は吉也の耳元で囁いた。その声は濡れ
 ているようで、吉也はぞくんと身を震わせた。
 「ふ………っ」
  身を捩った拍子に根元を開放され、吉也も自身を解放した。
  壮絶な快感に解放してからもびくびくと身を震わせていたが、それが去ると、今度は
 壮絶な羞恥に身が震えた。洗面器に溜めた湯で徹が手を洗うのを見ては尚更だ。
  涙がぼろぼろと零れていくのを徹から隠すように俯いていた吉也の顎を徹の手が取り、
 顔を上向かせて、その目元にキスを落とした。
  驚いて、涙の止まった吉也ににやりと悪戯気に笑った徹は、吉也の背をとんと押した。
 「ほら、今度は背中だ」
  いつもの徹の声に気が抜けた吉也は、素直に前屈み気味に徹から体を離す。
  が、首の付け根から洗い始めた徹の手が肩甲骨辺りをさ迷いだした頃から、また下腹
 辺りから快感が漂い始め、鳥肌を立てた。
  前屈み気味になっている為に、快感を主張する自分が丸見えで、居た堪れない。
  腰の辺りを洗われて、いつもならくすぐったさに笑い転げているはずなのに、今日は
 それすらも快感に変じている。
 「腰上げて」
  快感を堪えることに必死になっていた吉也は徹の声に無条件に従った。言われるまま
 に鏡の前に手を突く。双丘を揉み込むように洗われて、ようやく自分の格好が恥かしい
 ということに気が付く。羞恥に何か言おうとした瞬間に何かが体の中に入ってきたのを
 感じた。何か、ではない。指だ。徹の。
 「やだっ!お兄ちゃん!!」
 「ちゃんと洗わないと、ダメだろ…?」
  言いながら、ボディーソープの滑りを借りて、指をぐにぐにと動かす。
 「やっ……あぁぁ…ぁ…」
  最初感じていた異物感が快感に変わり、膝から力が抜け、吉也が床に蹲った頃には、
 指は三本になっていた。
 「柔らかいな…」
  うっとりと徹が呟いた頃には、腰が揺れていた。が、吉也に思考力はほとんど残って
 いない。
  すっと指を抜かれて、思わず徹を振り返った吉也は下半身に力が入らず、ぺたんと
 座り込む。
 「風邪引いちゃうからな、そろそろ風呂に浸かろう」
  心細そうな顔をした吉也に笑い掛け、シャワーのカランを捻って、吉也と自分の体を
 洗い流すと、ざぶんと湯舟に浸かり、吉也に向かって手を差し延べた。
 「ほら、来い」
  がくがくと力の入らない下半身をどうにか立たせて、浴槽を跨ぐ。それだけのことが
 すごく恥かしくて、どうしようもなかったが、徹に触れたい気持ちの方が強かった。
  いつもは徹を背凭れのようにして湯舟に浸かるのだが、今日は向かい合って、抱き
 ついた形で浸かりたいと吉也は思ったが、徹はべったりと浴槽の一方に背を凭れており、
 その形では浸かれそうにない。仕方なく、いつものように浸かることにして、湯に腰を
 下ろして、驚いた。
  さっきまで、徹の指が入っていた箇所に固い何かが触れたのだ。
 「あっ……!」
  声と一緒に咄嗟に立ち上がろうとした吉也の腰を徹が掴んで引き戻した。
 「こら、ちゃんと浸かれよ」
 「あああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
  徹の声は吉也の悲鳴に掻き消された。浴室に吉也の声が反響する。
 「大丈夫…大丈夫だ…」
  自分の体をぎゅっと抱き締めて、耳元で囁く徹の声に吉也は痛みはあるのだが、心が
 落ち着いてくる。これも条件反射だろう。幼い頃から、徹の「大丈夫」は吉也にとって
 絶対だったのだ。
  最初の衝撃が去ったらしい吉也を抱きしめたまま、小さい頃のそうしてやったように
 徹が抱いた体をゆっくりと揺らす。
 「………ぁ…んっ…」
  どのくらいそうしていたか、吉也が小さく声を上げた。いつから我慢していたのか、
 思わず上げてしまったらしい自分の声に赤くなった吉也の耳に唇を寄せながら、ふっと
 徹は笑った。
 「ほら、大丈夫だ。気持ちいいだろう…?」
  その声が、今自分の中にあるものと同じようにして、身体の中に染み入ってくるよう
 で、吉也は身体を震わせた。
 「…昔、お前がなかなか寝なかった時に、ずっとこうしてやってたよな…」
  本当に幼い頃の話を持ち出されて、吉也はますます赤くなって俯いた。その時と今で
 は、ある一点において、まるで状況が違うのだ。その違いをリアルに感じてしまう。
 その違い、不意打ちで吉也に衝撃を与えた徹のものは、今や別の感覚を与え始めていた。
 リアルな感覚はそれ自身のものだけではなく、感じている快感もそうだ。いつも徹に
 寄り掛かっている時の安堵感というか、快感ではない気持ちの良さも同時に感じていて
 吉也は頭に靄が掛かったような、覚束ない心地になった。
  衝撃に固くなっていた吉也のそこは、事前に散々ほぐしていたこともあって、吉也が
 落ち着くと柔らかくなっていき、吉也が快感を感じ始めると、徹にねっとりと絡み付く
 ようになった。その感覚が堪らなくなって、徹は思わず腰を動かした。
 「や……んっ……」
  呆っとしていた吉也は突然の快感に堪えようもなく声を上げた。その声に徹は煽られ、
 続けて、腰を強く突き上げた。
 「あぁ…ん…っ……っ」
  強烈な快感に最初は翻弄されていた吉也だったが、そのうち徹を呼び始めた。
 「おに…ちゃんっ!お兄ちゃん…!」
  快感を訴えるのとは少し感じの違う声に気付いて、徹は腰の動きをゆるやかにする。
 「どうした?」
 「怖…怖いの。掴まってもいい…?」
  涙ながらの訴えにうっとりと笑った徹は、吉也が腰を浮かせるのを手伝った。
 「…ふ………んっ…」
  くるりと徹を跨いで向きを変えた吉也が自分から抜けてしまったものの上に腰を下ろ
 したのに満足して、徹はその額にキスをした。
  よくできましたと言わんばかりのそのキスに、吉也が目を上げると蕩けそうな顔をし
 て、徹が軽く両手を広げた。
 「好きなだけ、しがみつけ」
  そんな徹にうっとりと笑った吉也は両腕を回して、徹の首に抱きついたのだった。
 「ぁあ…ん…や…ぁぁ…」
  ばしゃばしゃと跳ねる水の音と唱和するように声を上げていた吉也の声が一際大きく
 高くなって、浴室ははぁはぁという二人分の忙しない息の音だけになった。
  ぐったりと自分に凭れ掛かった吉也を徹が心配そうに覗き込んだ。
 「のぼせちゃったか?」
  ゆっくりと首を振った吉也は、徹の胸に溜息を落として言った。
 「気持ち良かった…」
  正直なその言葉に、徹は気分良く笑った。

 「ねぇ、あれ…何だったの?」
  お風呂から上がり、だるくなった身体を徹に預け、リビングのソファで髪を乾かして
 もらいながら、吉也は聞いた。
  カチリとドライヤーの電源を切った徹は、手櫛で吉也の髪を整えてやりながら言った。
 「成長したみたいだからな。大人の遊びだよ」
  友人達と興味津々で話していた露骨な単語を徹から引き出そうとした吉也は、平然と
 した徹の答えに何故だか憮然とした。どうして、そんな気分になったのか分からないが。
 「気持ちも成長したら、遊びじゃなくて、別の名前が付くよ」
  吉也の気分を計ることにかけてはプロである徹が、どんな効果を狙ってそう言ったの
 か、あるいは何の意図もなくそう言ったのか、何も吉也には測ることはできなかったが、
 気分は軽くなっていた。
 「じゃあ、気持ちが成長するまで、また遊んでね」
  くるりと後ろを振り向き、浴槽でしたのと同じように徹の首に両腕を回して、鼻の頭
 にキスをした吉也は、徹の驚いたような顔に満足した。
  

-END-

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